効果あるチラシを追及していくと、幾つかのパターンのテンプレートが出来上がります。たとえばB4サイズですと、こういうのです(どちらも表面のサンプルです)。
項目ごとに当てはめていけばいいので、誰でも効果あるチラシが作れる、というわけです。いわゆる虎の巻ですね。それまでのチラシをこのテンプレートに当てはめて作り直すだけで、効果が上がる場合がほとんどです。
でも、テンプレートでは太刀打ちできないチラシというものがあるんですね。
15年以上も前、個人でチラシ制作の相談に乗っていた頃のお話です。商社系の不動産部門を担当する子会社の営業さんから、チラシ印刷の相談をされたことがありました。
不動産の営業といえば、最近では北川景子さん主演の『家売る女』が話題となりましたね。
北川景子さんといえば、私はこっちの方が好きです。
すいません、戦隊ものの話じゃなくてチラシ戦略の話でした(^^;)
でも戦隊ものって、チラシ戦略を考える上で参考になることもあるんですよ、いや本当に。
さて私が呼ばれたのは、大阪湾岸に建設中のマンション。1階が商談フロアになっていて、その奥に事務所があり、10人あまりの営業さんが各自、チラシを新聞折込やポスティングして販売を競っていました。
事務所の壁にはマンションの図面が貼り出されていました。最初は真っ白の図面ですが、成約した部屋に営業さんの個人名が記された赤いリボンが付けられていきます。
営業さんのほとんどは、会社が制作した大きなフルカラーチラシを新聞折込やポスティングで配布して営業していましたが、2人の営業さんが私に相談を持ち掛けてきたのです。
1人は黒インクの1色チラシ、もう1人は2色チラシで勝負したいとの話でした。
お風呂に窓のあるマンション
1色チラシの営業さんは、山下清さん...あ、いえ、ドランクドラゴンの塚地さんに似ていて、スーツに鞄を斜め掛けし、シャツがズボンからハミ出していて、汗だくでした。
彼のチラシ案は、マンションの1部屋の図面が大きく書かれ、一番上に大きく「お風呂に窓のあるマンション」とタイトルが書かれた、ワードで自作したチラシでした。いかにも素人っぽい、いわゆるダサいチラシでしたが、タイトルが気になったので彼に尋ねました。
彼が言うには、このマンションの周辺地域には1960~70年頃の高度成長期に建てられたマンションや公団住宅が多く、当時のマンションはお風呂に窓がないか、あっても通路に面していて窓が開けられないそうなのです。
そこに住んでいる人たちは、ちょうど住み替え時期で、子供の代が家を購入する時期でもありました。その人たちに「お風呂に窓のあるマンション」を提案したいと言うのです。
会社のフルカラーチラシは、完成後のマンションのイラストと、各部屋のタイプと値段、そして湾岸リゾートを思わせるイメージ写真で構成されていて、お風呂のことが分からない、とのことでした。彼は、お風呂の窓に強いこだわりを持っていたんですね。
彼の話を聞いて、このチラシはひょっとしたらひょっとするかも、と思いました。そこでセレクトしたのが色紙(色上質紙)チラシでした。チラシと「お風呂に窓のあるマンション」のタイトルを、より目立たせるためです。
フルカラーチラシの制作陣も、もちろん市場調査はしているでしょうし、練りに練ったチラシを制作したはずです。でも、彼は彼なりに自分の足で市場調査し、「この時期にこの地域でマンション購入の可能性が高いのはどういう層なのか」を考え抜いて思いついたのが「お風呂に窓のあるマンション」だったわけです。
このチラシが、当たりに当たりました。壁に貼られたマンション図の半数近くの部屋が、彼のリボンで埋まったのです。
一風変わった文字だけのチラシという戦略
もう一人の2色刷りチラシの営業さんは、やせ型で眼鏡をかけた、クールで物静かなタイプ。彼のチラシは、マンションの見取図も写真もイラストもない、文字だけのチラシでした。
しかも、文字はすべて通常の文字ではなくフチ文字でした。こんな文字。
黒のフチ文字と、赤のフチ文字だけのチラシ。こんなチラシ、見たことありませんでした。フチ文字って読みづらいんですよね。でも、読みづらいからこそ、何が書いてあるんだろうと目を凝らして読みました。
赤のフチ文字は、ママにとっての湾岸生活=「家事と毎日が楽しくなる」ことについて書かれていました。
黒のフチ文字は、パパにとっての湾岸生活=「夜景美と休日リゾート生活」について書かれていました。
そして、少し小さな赤文字で、お子様たちにとっての湾岸生活=「開放的な遊び場と充実した近隣施設」について書かれていました。
いずれも、読む人の想像を掻き立てる言葉でした。 建物や間取りよりも「このマンションに住むことによって得られる新しい生活」について書かれていたのです。
そしてチラシの最下部に、担当者の電話番号とオープンハウス開催日の案内へと誘導されていました。
見たこともないチラシだったので、私がとやかく言うことはありませんでした。これでいく、というなら、やってみるしかないチラシ。
私が提案したのは、黒を紺に変えることと、紺と赤のフチ文字の書体を変えてオシャレにすることだけでした。書体を変えると、文字だけのチラシでもグンとオシャレなチラシになり、彼は満足して、そのチラシでいくことになりました。
結果は、彼がマンション販売の1/3程を占め、営業成績2位でした。マンションのほとんどの部屋を、2人が売ったのです。
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マンションチラシは、関心ある人以外はほとんど見ません。眺めるだけです。逆に、関心ある人は、自分に必要な情報を得ようと、あらゆる情報を検討しています。彼は、マンション購入を検討している層だけに的を絞り込み、オープンハウス見学に誘導することだけに徹底する作戦をとったのです。それが当たったのです。
最近はやりの手書きチラシも、読みにくいからこそ読まれるという点で、共通しています。クールな彼のアイデアは、その先駆けと言えるかもしれません。
2人とも、あてがわれたツールの枠内で勝負するのではなく、戦略を自分で考えて、こうと思ったら、思い切って実行に移す、という点で共通していました。その勇気が、チラシ制作でも、とても大事だと思うんです。
パワーチラシはデキる営業マン
この後、幾つかのマンションで彼らとチラシ制作を共にしましたが、彼らが作るチラシの効果はいつでもどこでも同じでした。塚地さんが1位で、クールな彼が2位。1年もたたないうちに塚地さんは営業の責任者になり、クールな彼は本社に引き抜かれました。
ノルマが厳しい業界で、突き詰めて突き詰めて生まれたアイデアチラシ。パワーチラシのほとんどは、他業界や消費者から見ると「なんで、このチラシが?」と思うような何の変哲もない泥臭いチラシです。
パワーチラシの共通点は、ターゲットを絞って、自分目線ではなく相手目線で、相手が求めていること、困っていることを察し、心配りがなされていることです。しかし決して客に媚びてはいません(これ大事)。自分本位のチラシや、欲張って手を広げ過ぎたチラシ、客に媚びたチラシはたいていスベります。
極論すれば、パワーチラシはデキる営業マンと同じだと思います。
デキる営業マンは自分目線ではなく相手目線で、相手が求めていることや困っていることを察して心配りのできる営業マンです。
上司の顔色を伺い、同僚との仲を客よりも優先し、客の顔を見ていない営業マンは、営業に向いていません。顧客のために時には同僚とぶつかり、上司とも渡り合える営業マンは、顧客の事業を向上させ、結果として自身の営業成績も向上します。
パワーチラシも、まったく同じだと思います。相手目線で、相手が求めていることや困っていることを察して、商品やお店に対する不安を取り除き、新たに得られる楽しさや喜びを与えることができ、結果的に双方が喜べるチラシ。
虎の巻テンプレートチラシでも、それなりの効果は得られますが、現場で生まれるパワーチラシにはかないません。
ちなみに、北川景子さんのセーラームーンもいいですが、私がいちばん好きだった戦隊ヒロインは『バトルフィーバーJ』のミスアメリカです。
どうです?
お子様向けの番組なのに、お父さんまで引き込んでしまおうっていう、この番組制作者の戦略。
これじゃ子供が勉強しないでTV見てたって、お父さん、怒れませんよね(笑)
だって子供が見ている後ろで、お父さん、横目で見てるんだもの(笑)
チラシも、ターゲットを絞って1人を引き入れられれば、その人の家族や友人・知人を巻き込んでしまえるのです。逆に多くの客を引き込もうとすると「二兎を追う者は一兎をも得ず」ですね。
ということで、ちょいセクシーなTV番組も「仕事の勉強なんだ。」と言い張れば、堂々と見れますよね、お父さん?(笑)
※美容院・サロン経営のチラシと数値指標については、こちらが参考になります。
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